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虚空(3)
前回までは、コチラ
虚空(1)
虚空(2)
─ 秋の夕暮れ。僕はその景色をベッドに横たわり見ていた。移りゆく雲の動き、合間から雲を燃やすように赤く染める夕焼け。
自分の頭の中のもやもやも簡単に消し飛ばすくらいの風が吹かないだろうか。ゆっくりと流れていく雲を見ながら僕のもやもやは、どんどん広がるばかりだった。
この広い空の下、どこかに君は、いるんだろう。僕は、探すべきなのだろうか。それとももう諦めたほうがいいのだろうか。
そんなことを考えているうちに、また空は暗闇へと閉ざされてしまった。
「怖い」
興、また危険な目にあっていないか?と、自分が暴行されたシーンよりも、興のことばかりがフラッシュバックのように何度も何度も繰り返し頭をよぎる。
今もこの夜の町で、興があの男たちに追われているような光景を想像すると怖くなった。
僕は、病室から出ると、屋上へと上がった。さすがに季節は、容赦なく冬へ移り変わろうとしている。さっきまで願っていた風は、僕の思考回路を麻痺させるほどに冷たく、そして身体に突き刺さるような尖った凶器にも思えたが、少し頭の中、心の中を整理したいと思った。
朝、病院に運び込まれた僕は、CT検査やレントゲン撮影などいろいろな検査を受けたけれど、肋骨にヒビが入ったことを除けばあとは軽い打撲だけで済んだ。
けれど、検査の結果をふまえてということで、1日だけ入院することになったんだ。会社にはお昼頃に電話連絡を入れた。だけど、僕にとって肋骨のヒビよりももっとショックを受けたのは、警察だった。
「この少年か?あんたに暴行を加えたんは?」
出された写真は・・・興だった。
「違います!数人の男たちで、30代か40代くらいだったと」
と僕は少し声高々に反論したけれど、警察は、
「はあ。そやけどやな、目撃証言があって、あんたとその少年が一緒にいたというんやで」
「それは・・・」言葉に詰まった。
警察は、容赦なく続けた。
「この少年には、窃盗の疑いでも被害届が出てるし」
“窃盗”・・・。頭の中に、ママの言葉が浮かんだ。
『あの子に近づいたらダメよ。雇った私がいうのもなんだけど、あの子は危険なのよ』
『危険なのよ』
『危険』
「一応、あんたがいう男らのことも聞きこみしてるけど、これがさっぱりなんやわ。」
そんなはずはない!
と言いたかったが、僕の頭の中は、興の窃盗のことでいっぱいになって反論する余裕がないまま、言葉を失っていた。
「まだ記憶もはっきりせえへんようやから、また明日、聞きにきますわ」
と警察は帰っていった。
興は、本当に窃盗したのか。
考えれば考えるほど、訳が分からなくなってきていた。
他人からみれば、たった数回、お酒を飲んだ店子と客。
普通に考えれば警察の言うことを信じてしまうだろう。
僕は、自分の上着のポケットに手をいれるとちょっと古ぼけた赤い財布を取りだした。
興がもし客の財布に手をつけ盗むような子だとしたら、
どうしてこの財布は、僕のポケットの中にある?
取ろうとおもえば、いつでも取れた財布。
僕が酔っ払い、少し酔い覚まし~とソファで寝ころんだときに、財布は僕のポケットから床に落ちた。
けれど、興は、その落ちた財布をまた僕のポケットに入れ直した。
僕がトイレに行った時。財布は、上着のポケットに入ったまま、椅子の上に無造作に置かれていた。
僕が帰る時、興は僕に肩を貸し、そして代わりにポケットから財布をとってお金を払った。
取ろうと思えば、盗もうとおもえば、いつでも盗めた財布が、どうしていま、ここにあるというんだ。
僕には、腑に落ちないことだらけ。
そして興の言った言葉も気になった。
『ママに聞いたんでしょ?俺のこと。』
睨みつけるような目で、まるで僕を、そう、まるで裏切られたといったばかりに思えた。
僕は、信じてるんだ。だから探した。追いかけた。
だから僕は、もし、あの時、誤解させたのならそれを謝りたい。
僕は、そういうつもりで君を探していたんじゃないのだから・・・。
ヒューーーーーー。
今、気付いたんだ。涙が流れていたことに・・・。
まるで、涙をぬぐってくれるかのようにその冷たい風は、頬を撫でるようにさすった。
本当に言いたかった事は何も言えていない。
そのことが君を傷つけてしまったのかもしれないんだね。
僕の中で気持ちが固まったような気がした。
僕は、興を信じる。
警察がなんと言おうと、僕は信じる。そして、僕は、君の味方になる。
最初から分かっていたことなのに、どうしてここまでパッとしないような曇り空だったんだろう。
分かってみれば、簡単なことだ。
そして僕は、病室に戻り、また眠れないベッドに身体を沈めた。
ただ・・・僕は、この時、何も分かって無かったんだ。
浅はかに君を信じ、そして・・・僕は・・・。
(続く)
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─ 秋の夕暮れ。僕はその景色をベッドに横たわり見ていた。移りゆく雲の動き、合間から雲を燃やすように赤く染める夕焼け。
自分の頭の中のもやもやも簡単に消し飛ばすくらいの風が吹かないだろうか。ゆっくりと流れていく雲を見ながら僕のもやもやは、どんどん広がるばかりだった。
この広い空の下、どこかに君は、いるんだろう。僕は、探すべきなのだろうか。それとももう諦めたほうがいいのだろうか。
そんなことを考えているうちに、また空は暗闇へと閉ざされてしまった。
「怖い」
興、また危険な目にあっていないか?と、自分が暴行されたシーンよりも、興のことばかりがフラッシュバックのように何度も何度も繰り返し頭をよぎる。
今もこの夜の町で、興があの男たちに追われているような光景を想像すると怖くなった。
僕は、病室から出ると、屋上へと上がった。さすがに季節は、容赦なく冬へ移り変わろうとしている。さっきまで願っていた風は、僕の思考回路を麻痺させるほどに冷たく、そして身体に突き刺さるような尖った凶器にも思えたが、少し頭の中、心の中を整理したいと思った。
朝、病院に運び込まれた僕は、CT検査やレントゲン撮影などいろいろな検査を受けたけれど、肋骨にヒビが入ったことを除けばあとは軽い打撲だけで済んだ。
けれど、検査の結果をふまえてということで、1日だけ入院することになったんだ。会社にはお昼頃に電話連絡を入れた。だけど、僕にとって肋骨のヒビよりももっとショックを受けたのは、警察だった。
「この少年か?あんたに暴行を加えたんは?」
出された写真は・・・興だった。
「違います!数人の男たちで、30代か40代くらいだったと」
と僕は少し声高々に反論したけれど、警察は、
「はあ。そやけどやな、目撃証言があって、あんたとその少年が一緒にいたというんやで」
「それは・・・」言葉に詰まった。
警察は、容赦なく続けた。
「この少年には、窃盗の疑いでも被害届が出てるし」
“窃盗”・・・。頭の中に、ママの言葉が浮かんだ。
『あの子に近づいたらダメよ。雇った私がいうのもなんだけど、あの子は危険なのよ』
『危険なのよ』
『危険』
「一応、あんたがいう男らのことも聞きこみしてるけど、これがさっぱりなんやわ。」
そんなはずはない!
と言いたかったが、僕の頭の中は、興の窃盗のことでいっぱいになって反論する余裕がないまま、言葉を失っていた。
「まだ記憶もはっきりせえへんようやから、また明日、聞きにきますわ」
と警察は帰っていった。
興は、本当に窃盗したのか。
考えれば考えるほど、訳が分からなくなってきていた。
他人からみれば、たった数回、お酒を飲んだ店子と客。
普通に考えれば警察の言うことを信じてしまうだろう。
僕は、自分の上着のポケットに手をいれるとちょっと古ぼけた赤い財布を取りだした。
興がもし客の財布に手をつけ盗むような子だとしたら、
どうしてこの財布は、僕のポケットの中にある?
取ろうとおもえば、いつでも取れた財布。
僕が酔っ払い、少し酔い覚まし~とソファで寝ころんだときに、財布は僕のポケットから床に落ちた。
けれど、興は、その落ちた財布をまた僕のポケットに入れ直した。
僕がトイレに行った時。財布は、上着のポケットに入ったまま、椅子の上に無造作に置かれていた。
僕が帰る時、興は僕に肩を貸し、そして代わりにポケットから財布をとってお金を払った。
取ろうと思えば、盗もうとおもえば、いつでも盗めた財布が、どうしていま、ここにあるというんだ。
僕には、腑に落ちないことだらけ。
そして興の言った言葉も気になった。
『ママに聞いたんでしょ?俺のこと。』
睨みつけるような目で、まるで僕を、そう、まるで裏切られたといったばかりに思えた。
僕は、信じてるんだ。だから探した。追いかけた。
だから僕は、もし、あの時、誤解させたのならそれを謝りたい。
僕は、そういうつもりで君を探していたんじゃないのだから・・・。
ヒューーーーーー。
今、気付いたんだ。涙が流れていたことに・・・。
まるで、涙をぬぐってくれるかのようにその冷たい風は、頬を撫でるようにさすった。
本当に言いたかった事は何も言えていない。
そのことが君を傷つけてしまったのかもしれないんだね。
僕の中で気持ちが固まったような気がした。
僕は、興を信じる。
警察がなんと言おうと、僕は信じる。そして、僕は、君の味方になる。
最初から分かっていたことなのに、どうしてここまでパッとしないような曇り空だったんだろう。
分かってみれば、簡単なことだ。
そして僕は、病室に戻り、また眠れないベッドに身体を沈めた。
ただ・・・僕は、この時、何も分かって無かったんだ。
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虚空(2)
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虚空(1)
─ 見えているかい?大きなお月さまの傍らで、一番最初に輝いた星。一番星。
ちょっと目を離すと消えてしまいそうなその小さな小さな光は、必死に何かを背負い、何かを隠し、何かを求めていたんだね。誰もそれに気付かないうちに、君は姿を消してしまう。
辺り一面を満点の星が輝くときには、一番最初に輝いていた君の姿は、もう無かったんだ。
でもね、僕は見つけたんだ。一番星を。この時間、この最初の夜空でしか見つけられない、君を・・・。
人も少なくなり酔っ払いと、ガールズバーの客引きしか目立たなくなった時間、商店街をただ一人、僕は走った。興、君を求めて。
後ろからも数人の足音が聞こえていたけど、僕の耳には入ってこなかった。何本ものわき道があったのにただまっすぐ、まっすぐ、商店街を突き進む。信号を渡り、次の商店街に入っても足を止めることはなかった。
小さな小さな神社の境内が見えてきた頃、その前にあるたった数段しかない階段に、座っている興を見つけた。
「興、、はぁ・・・。はぁ・・・」 息をきらしながら興に声をかけた。顔をあげ、しずかに僕の方をみたあとまたすぐ立ちあがって、
「興、行かないで!何があったんだ、さっきのやつらは・・・」
僕は必死になって呼びとめた。興は、「もう俺は店を辞めたんですよ。ほっといてください」
「ほっとけないよ!」、静まり返った境内に響き渡る声が静かにコダマした。
興は、「ママに聞いたんでしょ?俺のこと。」
今までの興とは違い、にらみつけるような目で僕に目をやると、「もう店やめたんです。関係ないでしょ?」といいはなち、僕から目をそらすように、右手は激しく僕を突き放すようにまっすぐにのび、そして気付くと興は僕の元から走り去っていく。
僕は、少し呼吸を整えながら、その後を追いかけようと足をあげたが次の瞬間、肩を強い力で抑えつけられた。
「兄ちゃん、さっきの男とどういう関係?」
後ろを振り向くと路地で興ともめていたあの男たちが僕の後ろに立っていた・・・。
僕は、何があったのか聞こうと身体の向きを変えたら次の瞬間、僕は飛んだ。すごい力と魂が抜けるような衝撃、まるでトラックかなにかに衝突したような感じに僕は宙を舞い、そして地面にたたきつけられた。
顔を覆う痛みに手をあてながら、突然殴られたことに動揺し、興が走り去った方に目をむけていた。
「よくも邪魔してくれたな、兄ちゃん。覚悟はできているんだろうな?」
そのあとは、お腹、背中、頭と、蹴られ殴られ、僕は次第に意識が薄れていった。痛みは最初だけで、今はもう何も感じなくなっていたんだ。
何も風景がない、何もない空間。
そこにただひとつ、小さな小さな星が輝いている。僕は必死にそれをつかもうと手を伸ばし、そして闇に包まれた。
僕は、死んだのだろうか・・・。ううん、もうそれでもいいや。と諦める自分がまたそこにいた。
僕の人生、いつだって孤独だったから。こういう消え方も、自分らしいやと思っていたのかもしれない。でも次第に明るくなっていくその小さな星の光にだんだん僕は包まれて、
そのまぶしさに目をあけると・・・
あたりはすっかり朝になっていた。「いた!!」 一瞬、夢だったんだと思い込もうとする自分を完全否定する痛みが全身を覆った。
現実だったんだ・・・と。僕は、必死に起き上がろうとしたけど腰の激痛がひどく、起き上がることができなかった。あたりを見渡すと、場所は神社の中。
掃除をするおじいちゃんが僕のもとに走り寄ってきた。
「大丈夫かい?あんた」 そう声をかけると黒ずんだ手を僕に差し伸べた。僕は迷わずそれにつかまり、なんとか起き上った。
「いたい・・・」さっきからそれしか言ってないような気がする僕の脳裏には、今日、仕事にいかないといけないということがちらっと脳裏をかすめると、
「救急車呼ぶかい?」というおじいちゃんの声に、「はい・・・」と答えるとまるで、それで仕事に行かなくて済んだとばかりに、ほっとする自分に気付いた。
頭の中を整理しているうちに、救急車の音が聞こえ出した。そこに、もうひとり僕のもとに駆けだしてきた。あ・・・。それは、よく知っている人だった。
ママ・・・。
ゲイバーのママだ。
「大丈夫?災難だったわね」
少し化粧がとれ、髭が見え始めていた。「はは・・・何があったのかよく覚えてないや」とちょっとうすら笑いをみせると、
「興ね・・・。」
すっかり見透かされていた。
「私、裕が毎週のようにこのあたりを歩いているのをみて気付いていたわ。興を探しているのかしらって。」
そのあと厳しい目になって、こういった。
「あの子に近づいたらダメよ。雇った私がいうのもなんだけど、あの子は危険なのよ」
どう危険だというのか。あんなに、あどけない子供のような、そして何より、あんなに人に接するのが丁寧な子がどうして危険なのか。僕は興に殴られたんじゃない。
「ママ、心配かけてごめん。でも僕、興のこと気になってるんだ」
そのあとママは、黙り込んだまま、救急車は到着した。
興は、僕と同じでつい最近まで付き合ってた彼氏にひどいことをされ、そして別れた。同じ境遇をもってた。楽しかったんだ。あの時間、あの店での時間。僕らは、すっかり打ち解けてた。
店子と客かもしれない。僕に見せたあの笑顔まで、ただの接客だったというのか。
おかしいじゃないか。
もし、ママがいうように、お客の財布に手をつけたり、いろいろなトラブルを抱えているなんてしたら、まるで僕の知っている興とは別人だ。
僕は、いったい、だれに一目ぼれしたというのか。
救急車の走る中、数分と短い時間が僕の中では数時間のように長く、脳は何回転も何十回転も、何億回転もしても結論は、出ないままだった。
僕には、信じられない。
病院につくと、ママが先に救急車をおりて僕が下りてくるのを見ていた。
僕は、横になったまま、運ばれ、
ロビーを過ぎ、そして部屋へと通された。
現実の会社に電話を入れないと、という思いよりも、興のことばかり考えていた。
あの男たちは、何だったのか、
本当に興は、客の財布に手をつけたのか、
ママの言った、危険とはどういう意味なのか。
分からないことだらけだ。興、覚えているかい。僕が彼氏にひどいことをされたと話したとき、君は、
「でも裕さんが無事でよかったよ。こうして会えたんだもん。」
見つけたんだ。一番星を。
僕は、君が消えないうちに、もう一度・・・もう一度、会いたい。
―続く―
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─ 見えているかい?大きなお月さまの傍らで、一番最初に輝いた星。一番星。
ちょっと目を離すと消えてしまいそうなその小さな小さな光は、必死に何かを背負い、何かを隠し、何かを求めていたんだね。誰もそれに気付かないうちに、君は姿を消してしまう。
辺り一面を満点の星が輝くときには、一番最初に輝いていた君の姿は、もう無かったんだ。
でもね、僕は見つけたんだ。一番星を。この時間、この最初の夜空でしか見つけられない、君を・・・。
人も少なくなり酔っ払いと、ガールズバーの客引きしか目立たなくなった時間、商店街をただ一人、僕は走った。興、君を求めて。
後ろからも数人の足音が聞こえていたけど、僕の耳には入ってこなかった。何本ものわき道があったのにただまっすぐ、まっすぐ、商店街を突き進む。信号を渡り、次の商店街に入っても足を止めることはなかった。
小さな小さな神社の境内が見えてきた頃、その前にあるたった数段しかない階段に、座っている興を見つけた。
「興、、はぁ・・・。はぁ・・・」 息をきらしながら興に声をかけた。顔をあげ、しずかに僕の方をみたあとまたすぐ立ちあがって、
「興、行かないで!何があったんだ、さっきのやつらは・・・」
僕は必死になって呼びとめた。興は、「もう俺は店を辞めたんですよ。ほっといてください」
「ほっとけないよ!」、静まり返った境内に響き渡る声が静かにコダマした。
興は、「ママに聞いたんでしょ?俺のこと。」
今までの興とは違い、にらみつけるような目で僕に目をやると、「もう店やめたんです。関係ないでしょ?」といいはなち、僕から目をそらすように、右手は激しく僕を突き放すようにまっすぐにのび、そして気付くと興は僕の元から走り去っていく。
僕は、少し呼吸を整えながら、その後を追いかけようと足をあげたが次の瞬間、肩を強い力で抑えつけられた。
「兄ちゃん、さっきの男とどういう関係?」
後ろを振り向くと路地で興ともめていたあの男たちが僕の後ろに立っていた・・・。
僕は、何があったのか聞こうと身体の向きを変えたら次の瞬間、僕は飛んだ。すごい力と魂が抜けるような衝撃、まるでトラックかなにかに衝突したような感じに僕は宙を舞い、そして地面にたたきつけられた。
顔を覆う痛みに手をあてながら、突然殴られたことに動揺し、興が走り去った方に目をむけていた。
「よくも邪魔してくれたな、兄ちゃん。覚悟はできているんだろうな?」
そのあとは、お腹、背中、頭と、蹴られ殴られ、僕は次第に意識が薄れていった。痛みは最初だけで、今はもう何も感じなくなっていたんだ。
何も風景がない、何もない空間。
そこにただひとつ、小さな小さな星が輝いている。僕は必死にそれをつかもうと手を伸ばし、そして闇に包まれた。
僕は、死んだのだろうか・・・。ううん、もうそれでもいいや。と諦める自分がまたそこにいた。
僕の人生、いつだって孤独だったから。こういう消え方も、自分らしいやと思っていたのかもしれない。でも次第に明るくなっていくその小さな星の光にだんだん僕は包まれて、
そのまぶしさに目をあけると・・・
あたりはすっかり朝になっていた。「いた!!」 一瞬、夢だったんだと思い込もうとする自分を完全否定する痛みが全身を覆った。
現実だったんだ・・・と。僕は、必死に起き上がろうとしたけど腰の激痛がひどく、起き上がることができなかった。あたりを見渡すと、場所は神社の中。
掃除をするおじいちゃんが僕のもとに走り寄ってきた。
「大丈夫かい?あんた」 そう声をかけると黒ずんだ手を僕に差し伸べた。僕は迷わずそれにつかまり、なんとか起き上った。
「いたい・・・」さっきからそれしか言ってないような気がする僕の脳裏には、今日、仕事にいかないといけないということがちらっと脳裏をかすめると、
「救急車呼ぶかい?」というおじいちゃんの声に、「はい・・・」と答えるとまるで、それで仕事に行かなくて済んだとばかりに、ほっとする自分に気付いた。
頭の中を整理しているうちに、救急車の音が聞こえ出した。そこに、もうひとり僕のもとに駆けだしてきた。あ・・・。それは、よく知っている人だった。
ママ・・・。
ゲイバーのママだ。
「大丈夫?災難だったわね」
少し化粧がとれ、髭が見え始めていた。「はは・・・何があったのかよく覚えてないや」とちょっとうすら笑いをみせると、
「興ね・・・。」
すっかり見透かされていた。
「私、裕が毎週のようにこのあたりを歩いているのをみて気付いていたわ。興を探しているのかしらって。」
そのあと厳しい目になって、こういった。
「あの子に近づいたらダメよ。雇った私がいうのもなんだけど、あの子は危険なのよ」
どう危険だというのか。あんなに、あどけない子供のような、そして何より、あんなに人に接するのが丁寧な子がどうして危険なのか。僕は興に殴られたんじゃない。
「ママ、心配かけてごめん。でも僕、興のこと気になってるんだ」
そのあとママは、黙り込んだまま、救急車は到着した。
興は、僕と同じでつい最近まで付き合ってた彼氏にひどいことをされ、そして別れた。同じ境遇をもってた。楽しかったんだ。あの時間、あの店での時間。僕らは、すっかり打ち解けてた。
店子と客かもしれない。僕に見せたあの笑顔まで、ただの接客だったというのか。
おかしいじゃないか。
もし、ママがいうように、お客の財布に手をつけたり、いろいろなトラブルを抱えているなんてしたら、まるで僕の知っている興とは別人だ。
僕は、いったい、だれに一目ぼれしたというのか。
救急車の走る中、数分と短い時間が僕の中では数時間のように長く、脳は何回転も何十回転も、何億回転もしても結論は、出ないままだった。
僕には、信じられない。
病院につくと、ママが先に救急車をおりて僕が下りてくるのを見ていた。
僕は、横になったまま、運ばれ、
ロビーを過ぎ、そして部屋へと通された。
現実の会社に電話を入れないと、という思いよりも、興のことばかり考えていた。
あの男たちは、何だったのか、
本当に興は、客の財布に手をつけたのか、
ママの言った、危険とはどういう意味なのか。
分からないことだらけだ。興、覚えているかい。僕が彼氏にひどいことをされたと話したとき、君は、
「でも裕さんが無事でよかったよ。こうして会えたんだもん。」
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テーマ : 同性愛、ホモ、レズ、バイセクシャル
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虚空(1)
─ いつも、そうやって一人で寂しそうにしているんだね。
君は、いつもそうだった。僕がいるのに、僕と一緒に遊んでいても、話していても少し会話に間が開くとどこか何もない空間に目をやり、まるでその世界でただ一人かのように悲しそうな目をしていた。
僕では、その悲しみを埋めてあげることは出来なかったのだろうか。
いや、まさか自分の事が分かっていた訳じゃないんだよね。自分が居なくなった世界を見つめていたわけじゃないよね。
僕は、君と出会い、君と話し、君に触れ、そして君に恋をした。
君がいない世界なんて想像もつかないほどにね。だけど君の見ている視界には、僕は本当に映っていたのだろうか。
10月─。失恋し、何も手がつかないほどに落ち込んでいた僕は、それまで月1程度だったバーに頻繁に顔を出すようになった。そこでお酒を飲んでいる時間だけが、唯一、寂しさを紛らわすことのできる時間だったのかもしれない。
今日もまた仕事が終わってスーツのジャケットを手にもち、少し雨にぬれたカッターシャツをハンカチで拭きながら僕は、あまり飾りっけのないドアを開けた。
ゲイバー。その昔、僕がまだ普通に男と女の恋愛を楽しんでいた頃、接待や会社の付き合いで何度か訪れたことのあるキャバクラの男版といった感じのお店だ。
接客するのは男。言葉を飾ることなく、時には友達のように、時には恋人のように接してくれるその店の若いママ、ママといっても男なんだけど、癒しを求めるように足蹴なく通うようになった。といっても僕も、最初は敷居が高く、「座るだけでぼったくられる店」という印象をもっていて近づくこともなかったのだが、当時、付き合っていた彼が好きな場所だったこともあって何度か連れて来られた。
この日は、ママの前に若い男の子がついていた。年は、相当若く見えたけどお酒のボトルが空になっているのを見て僕の中で彼の年代は20代前半と確定した。僕は、いつもの席じゃなく、少し右寄りの席にジャケットを置くとその横の席に腰を落ち着かせた。ママは僕に「今日のサービスドリンクよ♪いつもお疲れ様♪」と席に置いたジャケットを両手で丁寧にうけとるとハンガーにかけた。
「ママ、そのお客さん、ずいぶん、若いね♪」
と言うと「お客さんじゃなくて今日から働いてもらう新人君よ♪」と頬に手をつけて微笑むと、右手で男の子を呼び寄せた。
「あ、初めまして。コウっていいます。宜しくお願いします」
テーブルの隅には、自己紹介用だろうか、A4サイズの紙に「新人 興 20歳」と書かれていた。興は、20歳には、とても見えない高校生のような顔で、あどけない笑顔ではにかむ可愛い子だった。僕にとって、それは紛れもない一目ぼれだったのかもしれない。
けれど、僕の中で決めていたルールがあった。「店子とは恋はしない。」店子とは、ゲイバーなどで働くボーイのこと。ここだけの空間、ここだけでの疑似恋愛、ここだけでの時間を楽しむためにも余計な事をしてはいけない、そう思ってた。でも、僕はこの瞬間、ルールに1つ付けくわえたんだ。
「ファンになろう」
と。僕は、興の最初のお客さん、そして最初のファンになろう。と。だけど想像もしていなかったんだ。
僕の中に植えつけられた一瞬の種は、着実に芽をつけはじめていたこと、
2度、そして3度、僕の興目当てでの店通いは3日目に入っていた。そして、僕にとって最も恐れていたことが起きた。
ママは、少し下向きな顔で、「ごめんね。興くん、辞めちゃったの。お店」
え・・・、声にならない声でとまどいを見せる僕にママは続けて「お客さんとね、ちょっとあって」
なんとなく想像は、ついたのだけれど、詳しく聞きたがる自分の暴走を止めることは、出来なかった。どうして、どうして!何があったの、教えて!と矢継ぎ早に僕はママを押し倒すように質問攻めをした。
興がお客さんの財布に手をつけたこと、
お店に年齢を偽っていたこと、
興が分からなくなっていた。たった数回、ここで一緒にお酒を飲んだだけ、と言われればそのとおりだけど、僕は純粋に興のことが気になっていた。もう一度、会いたい。
僕は、店を出て堂山の周りを駆け足で歩いた。興の後ろ姿に似た人を見つけると追いかけた。見つかることは、なかったけれど、僕は、仕事の帰りに毎日のように周辺を歩いた。
僕はただの客。ただのお金を運ぶただの客。
ううん、それを否定する自分と、そう諦めさせようとする僕との葛藤は続いた。興のことが知りたい。
それから約1週間。土曜日の夜のことだった。
ヨドバシカメラの灯かりが消え、阪急方面に歩く人の流れも少なくなってきた時間。
ホテルのイルミネーションが輝きはじめ、僕の足もまたいつものように堂山へと向かっていた。
─ 堂山交差点。
ここを入ると商店街になりさらにその奥には、たくさんのゲイバーが雑居ビルの中に店をかまえている。ガールズバーのボーイから手をひかれ、「可愛い子がいますよ」と言われてもそれを振り払い、僕は、奥へ奥へと入って行った。
商店街のわき道それた路地の一角で、激しい物音と怒声が聞こえ、目をやると
数人のガタイのいい男と、小柄な男が絡んでいた。
「ん・・・?興?」
怒声にまじり伝わることのないほどの小さな声でそうつぶやく僕に、飛び散るごみ箱のごみ、何かが割れる音が聞こえたかとおもうと、小柄な男は路地から商店街へと走り込むとそのまま人ごみの中へと走り去った。
僕は必死に追いかけた。興だ、きっと興に違いない。
街灯も少ない路地でうっすらとみた影で興と判断できるだけの材料は、無い。でもきっとこの時、核心に近いほど僕は、そう思って追いかけたんだ。
テーマ : 同性愛、ホモ、レズ、バイセクシャル
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