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虚空(1)
─ いつも、そうやって一人で寂しそうにしているんだね。
君は、いつもそうだった。僕がいるのに、僕と一緒に遊んでいても、話していても少し会話に間が開くとどこか何もない空間に目をやり、まるでその世界でただ一人かのように悲しそうな目をしていた。
僕では、その悲しみを埋めてあげることは出来なかったのだろうか。
いや、まさか自分の事が分かっていた訳じゃないんだよね。自分が居なくなった世界を見つめていたわけじゃないよね。
僕は、君と出会い、君と話し、君に触れ、そして君に恋をした。
君がいない世界なんて想像もつかないほどにね。だけど君の見ている視界には、僕は本当に映っていたのだろうか。
10月─。失恋し、何も手がつかないほどに落ち込んでいた僕は、それまで月1程度だったバーに頻繁に顔を出すようになった。そこでお酒を飲んでいる時間だけが、唯一、寂しさを紛らわすことのできる時間だったのかもしれない。
今日もまた仕事が終わってスーツのジャケットを手にもち、少し雨にぬれたカッターシャツをハンカチで拭きながら僕は、あまり飾りっけのないドアを開けた。
ゲイバー。その昔、僕がまだ普通に男と女の恋愛を楽しんでいた頃、接待や会社の付き合いで何度か訪れたことのあるキャバクラの男版といった感じのお店だ。
接客するのは男。言葉を飾ることなく、時には友達のように、時には恋人のように接してくれるその店の若いママ、ママといっても男なんだけど、癒しを求めるように足蹴なく通うようになった。といっても僕も、最初は敷居が高く、「座るだけでぼったくられる店」という印象をもっていて近づくこともなかったのだが、当時、付き合っていた彼が好きな場所だったこともあって何度か連れて来られた。
この日は、ママの前に若い男の子がついていた。年は、相当若く見えたけどお酒のボトルが空になっているのを見て僕の中で彼の年代は20代前半と確定した。僕は、いつもの席じゃなく、少し右寄りの席にジャケットを置くとその横の席に腰を落ち着かせた。ママは僕に「今日のサービスドリンクよ♪いつもお疲れ様♪」と席に置いたジャケットを両手で丁寧にうけとるとハンガーにかけた。
「ママ、そのお客さん、ずいぶん、若いね♪」
と言うと「お客さんじゃなくて今日から働いてもらう新人君よ♪」と頬に手をつけて微笑むと、右手で男の子を呼び寄せた。
「あ、初めまして。コウっていいます。宜しくお願いします」
テーブルの隅には、自己紹介用だろうか、A4サイズの紙に「新人 興 20歳」と書かれていた。興は、20歳には、とても見えない高校生のような顔で、あどけない笑顔ではにかむ可愛い子だった。僕にとって、それは紛れもない一目ぼれだったのかもしれない。
けれど、僕の中で決めていたルールがあった。「店子とは恋はしない。」店子とは、ゲイバーなどで働くボーイのこと。ここだけの空間、ここだけでの疑似恋愛、ここだけでの時間を楽しむためにも余計な事をしてはいけない、そう思ってた。でも、僕はこの瞬間、ルールに1つ付けくわえたんだ。
「ファンになろう」
と。僕は、興の最初のお客さん、そして最初のファンになろう。と。だけど想像もしていなかったんだ。
僕の中に植えつけられた一瞬の種は、着実に芽をつけはじめていたこと、
2度、そして3度、僕の興目当てでの店通いは3日目に入っていた。そして、僕にとって最も恐れていたことが起きた。
ママは、少し下向きな顔で、「ごめんね。興くん、辞めちゃったの。お店」
え・・・、声にならない声でとまどいを見せる僕にママは続けて「お客さんとね、ちょっとあって」
なんとなく想像は、ついたのだけれど、詳しく聞きたがる自分の暴走を止めることは、出来なかった。どうして、どうして!何があったの、教えて!と矢継ぎ早に僕はママを押し倒すように質問攻めをした。
興がお客さんの財布に手をつけたこと、
お店に年齢を偽っていたこと、
興が分からなくなっていた。たった数回、ここで一緒にお酒を飲んだだけ、と言われればそのとおりだけど、僕は純粋に興のことが気になっていた。もう一度、会いたい。
僕は、店を出て堂山の周りを駆け足で歩いた。興の後ろ姿に似た人を見つけると追いかけた。見つかることは、なかったけれど、僕は、仕事の帰りに毎日のように周辺を歩いた。
僕はただの客。ただのお金を運ぶただの客。
ううん、それを否定する自分と、そう諦めさせようとする僕との葛藤は続いた。興のことが知りたい。
それから約1週間。土曜日の夜のことだった。
ヨドバシカメラの灯かりが消え、阪急方面に歩く人の流れも少なくなってきた時間。
ホテルのイルミネーションが輝きはじめ、僕の足もまたいつものように堂山へと向かっていた。
─ 堂山交差点。
ここを入ると商店街になりさらにその奥には、たくさんのゲイバーが雑居ビルの中に店をかまえている。ガールズバーのボーイから手をひかれ、「可愛い子がいますよ」と言われてもそれを振り払い、僕は、奥へ奥へと入って行った。
商店街のわき道それた路地の一角で、激しい物音と怒声が聞こえ、目をやると
数人のガタイのいい男と、小柄な男が絡んでいた。
「ん・・・?興?」
怒声にまじり伝わることのないほどの小さな声でそうつぶやく僕に、飛び散るごみ箱のごみ、何かが割れる音が聞こえたかとおもうと、小柄な男は路地から商店街へと走り込むとそのまま人ごみの中へと走り去った。
僕は必死に追いかけた。興だ、きっと興に違いない。
街灯も少ない路地でうっすらとみた影で興と判断できるだけの材料は、無い。でもきっとこの時、核心に近いほど僕は、そう思って追いかけたんだ。
テーマ : 同性愛、ホモ、レズ、バイセクシャル
ジャンル : アダルト
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